大使ご挨拶

9月13日から21日、世界陸上競技選手権大会が東京で開催されます。多くのケニア陸上選手が、この大会を目指し研鑽を積んできました。必ずや少なからぬケニア選手が好成績を上げると思います。ケニアの選手が日本で活躍する姿を目にすることはいつもながら大変嬉しいことです。今から楽しみにしています。
日本とケニアの陸上競技交流の歴史は長くかつ厚いです。ケニアから日本への流れは、若い長距離走者を日本の大学に留学させ、マラソン選手として育てる活動に代表されます。サムエル・カマウ・ワンジルなど何人も世界的な選手がこの活動から輩出しています。日本からケニアの流れは、日本の陸上選手によるケニアでの強化合宿です。高地での心肺機能鍛錬やケニア独自の高速走法の会得を目的に、多くの選手がイテン、エルドレットなどの地で訓練を行って来ています。中距離の田中希美選手もその一人です。陸上競技交流がこのように双方向の交流として育っていることは、今後の日ケニア関係の目指す先を予知するものです。関係者のご努力に改めて敬意を表します。
ラグビー全日本チーム元キャプテンの廣瀬俊朗選手は、ケニアが7人制ラグビーの強豪国であることから、同様の双方向交流を進めることを目指して活動を始めています。こちらも今後の進展が大いに楽しみです。
ケニアにおける柔道や空手も新たな観点から注目を集めています。スラムに道場を開き、貧困層の子女に柔道や空手を教える動きが活発になっています。彼らの若いエネルギーを非行や麻薬でなくスポーツに向けていく取り組みで、成果が上がっています。私は柔道日本大使杯をケニア柔道連盟と共に主催していますが、その場でもスラム出身の若者選手が、ケニア国軍や警察チームの大きな体の選手を相手に体当たりを繰り広げ、多くの一本を獲得します。なんとも爽快な場面です。彼らは柔道や空手を通じて、体力と自信と誇りを身につけ、その後の自分の運命を切り開いていくのです。国軍兵士や警察官に任官する若者もいます。
先日は、日本バドミントン協会から中古のバドミントン用具の寄贈申し出がありました。中古といっても新品同様の利用価値の高いものです。大使館が仲介となり、バドミントン・ケニアとケニア・パラバドミントン連盟への寄贈が実現しました。
スポーツを通じた日ケニア関係の強化は、他の分野にはない独自の力があります。まず何といってもスポーツが持つ、人間の力を出し切ってぶつかり合う迫力から生まれる魅力と興奮のため、スポーツ交流が生み出す人と人の絆は大変に強力です。同様に、スポーツが持つ広範な人気とアピール力のため、スポーツ交流は日ケニア両国の極めて広い層の多くの人たちに、前進する日ケニア関係の素晴らしさを感じてもらうことができます。中でも、両国の若者がスポーツ交流の進展を通じて、お互いの国に惹かれ合うようになることは、日ケニア関係の長い将来にわたる関係の基盤を大いに強化するものです。陸上、ラグビー、柔道、空手、バドミントンなど、実に多くの競技で日ケニア交流が進展していることは、大変に恵まれたことです。
皆さまにはそれぞれの分野、種目でスポーツ交流を進めていただきありがとうございます。大使館としても交流のさらなる進展に向けできる限りのことをしていきたいと考えます。皆様と共に、スポーツを媒介にした、人の触れ合い、掛け声や笑い声、ドラマと共感に溢れた日ケニア関係を作っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
2025年9月10日
特命全権大使
松浦 博司